マイペース

昨日テレビを見ていて、今日9月16日が敬老の日だと知った。僕は体調を崩してしまったため2ヶ月前から実家で静養している。祖父母と両親とあわせて5人で暮らすのは、僕が大学進学のために上京して以来になる。8年ぶりに同じ家の中で暮らすようになった。僕はそもそも元気な姿で実家に帰ってくることができず、衰弱した状態での再会だった。

家族には絶対に心配をかけたくないと思っていたのに、こんな姿で会うなんて、夢にも思わなかった。僕自身が、家族と再び暮らすようになって、以前とは違う家族の姿に気がつくようになった。頑固者で人の言うことを聞かなかった祖父が祖母に対して優しくなり、働き者だった祖母は腰が曲がって身長まで小さくなってしまった。母は顔のしわが増え、僕の中で絶対的な存在だった父が、どこにでもいるようなおじさんになってしまった。子供の頃、父には殺されるかと思うくらいに怒られたこともあった。早く家を出たいと思ったし、今思えばいくら子供へのしつけでも、とにかく厳しかった。特に怒鳴られることが多かった。元来臆病者の僕には、僕の人格を形作る上で、大きく影響を及ぼしていると思う。当時の僕には父に従う以外に選択の自由はなかった。僕が選択をするとしても、父親が定めた中での出来事であり、僕がどうこうしても喜びが小さかった。父親が世界中の他のどんな男性よりも強いと錯覚していたほどだった。とにかく、あんなに大きく見えた父の背中が、いつの間にか小さく、弱く見えてしまった。そういうこともあって、敬老の日だと知り、これまでの感謝をささやかながら示そうと決意した。

女々しいけれど、家族のために手料理を作った。1人暮らしをしているときに覚えた料理、ハンバーグを作った。買出しからはじめ、誰かのために何かをすることは新鮮な気持ちになることができた。特に、家族も、僕もいつどうなるのか、わからないと思ったから、とにかく僕は、家族が幸せだと思える時間を作りたかった。食事は家族が揃って食べることが暗黙の決まり事になっているから、大抵僕は、その時間にイベントを企画している。今回の料理のハンバーグには、隠し味にトマトをハンバーグのミンチに混ぜることにした。まず、たまねぎとトマトをみじん切りにし、フライパンで軽く炒めた。牛と豚の合挽き肉とたまねぎ、トマト、卵をボールに入れ、手で混ぜ合わせた。塩と胡椒を入れたが、水っぽかったので、パンを細かく切って、つなぎにした。このタネを寝かせてから、フライパンで焼こうと思っていた。

その間、家の外で、庭造りをしていた。1時間程して、母が待ちきれなくなったのか、僕に早く焼かないのか?と聞いてきた。いつも父が食事をする時間に、料理が揃っていないと怒鳴るせいで、そういうやりとりがよくある。僕が面倒くさくなって、母にもう焼いてくれと言い放った。結局、僕は料理の仕込みだけで終わってしまったけれど、祖母も母もそれなりに喜んでくれた。父からも美味しいと一言もらうことができた。僕は心の中で良かったと小さくつぶやいた。どうせなら最後までやればよかったと少し反省した。

こうやって日記を書きながら、食器を洗ったり、洗濯をたたんだり、体のコリをほぐしてあげたり、何かプレゼントをしてあげたり、一緒に旅行に行ったりと、少し考えれば、してあげたいことにきりがない。僕が自慢できるような息子や孫だったら、もっと笑ってくれるのだろうかと悲しい気持ちがわいた。ずっとは続かない時間がこんなにも儚く切ないのは秋の夜風のせいだと思った。

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